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2023.3.9

帰ってきたくなる部屋づくり。クリエイターの3畳チル

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気になるクリエイターの「チル空間」。 見えてきたキーワードは、「帰ってきたくなる部屋」だった。

これまで、屋外で楽しむ「チル」カルチャーを紹介してきた「チルするすゝめ」。 たまには趣を変えて、「チルな空間」にスポットライトを当ててみよう。
今回は3名のクリエイターたちのお部屋を訪問。仕事もライフスタイルも異なる彼らの、「3畳でできるチル」を聞いてみた。

「買い物モンスター」の、モノに癒される秘密基地。イラストレーター faceの3畳チル

東京は代々木八幡。セレクトショップが立ち並ぶ住宅街のアパート1階に、彼の「秘密基地」はある。
イラストレーター・faceさんの事務所兼アトリエだ。

BEAMSのプロジェクト「マンガート ビームス」では、大人気アニメ『チェンソーマン』のキャラクターを描き下ろし。目と口がさかさまになったイラストは、一度みると忘れられない強烈なインパクトを持つ。

約束した時間にアトリエの扉を開くと、faceさんの私物が所狭しと並んだワンルームが広がっていた。デスク上のiMacから薄く流れてくる洋楽、壁に立てかけられたギター、自身の肖像画、ビンテージの洋服、『全裸監督』とのコラボフィギュア……。

作家の好きなものをかき集めてつくった「秘密基地」と言えそうなお部屋だ。ここでfaceさんは作品をつくり、ご飯を食べ、友人2人とPodcast番組の配信を収録しているそうだ。

「僕、友達から『買い物モンスター』って言われてるんですよ(笑)。小さい頃から収集癖があって、親に買い物を止められていたくらい。自宅に置いているモノも多いので、今は奥さんに煙たがられてますね」

それでも毎日のネットサーフィンはやめられない。欲しい物がなくても、大好きな50年代・60年代のアンティークを求めてついつい検索してしまう。人から貰うお土産でさえ「時間が経っても手元に残るモノ」がいいらしい。

そして買い集めた小物たちと同じくらい、faceさんの秘密基地には自身の作品も多く並んでいる。自身の作品からインスピレーションを受けることはあるのだろうか?

「はい、何を描くかは『ここ(アトリエ)に何を飾りたいか』で決めることが多いですね。完成したら飾って、見た人から評価がほしいタイプです」

これだけ自分の好きを集めた空間だと、作業中もついつい手を止めてしまう……なんてことはないのだろうか。

「正直、ここだと仕事モードにならないですよね。リラックスしちゃいます(笑)。でも、この部屋で手を動かす時が1番、気が楽なんですよ。やっぱり絵を描くことは好きだし、ここでずっと遊んで過ごしている感じ」

そんなfaceさんが秘密基地で「遊び」疲れたときには、いつもこの広いソファに腰掛けるという。

「このオレンジ色のハーマンミラーのイスに足をかけて……仮眠をとったり、漫画を読んだりしてます」

「好きな漫画は『おやつ』という作品。おやつが大好きな小学生が出てくるギャグ漫画なんですけど、本当にシュールで頭おかしい漫画なんですよ(笑)。今の作風は昔の漫画にも影響を受けてます」

そう話すfaceさんの「モノ」への執着、イラストの色彩感、見た目の印象とは対照的な親しみやすさ、そして黒メガネ……この感じ、同じく漫画家・イラストレーターとして有名なみうらじゅん氏を思い出させるのは筆者だけだろうか?

「ああ、僕もみうらじゅんさんにはシンパシーを感じます。彼は本の中で、『なんかイヤだな、と思う名前を物につけるようにしている』と書いていて。僕が友人とやっているPodcastの番組名も、Muddy Waterz =「泥水」っていうイヤな名前なんですよ(笑)。『似てんな〜』って思いましたね」

取材が終わってから、faceさんの口からぽろっと本音がこぼれる瞬間があった。「正直、この画風に飽きてきちゃったんですよね。もちろん、『描いてほしい』と言ってくれる人がいる限りは続けますけど……。みうらじゅんさんみたいに、『飽きてないふり』をする修行をしたほうが良いのかもしれないっすね(笑)」

制作で迷ったときは、きっとこのソファに積まれた漫画を読むリラックスタイムがfaceさんを助けてくれるはず——
そんな気がした。

過去の自分が書いた「断片日記」に鼓舞されて。ライター・初音の3畳チル

2軒目に伺ったのは、ライター・初音さんのお部屋。

この洗練された雰囲気は一体どこからやってくるのだろうか……。よくよく見ると、シルバーで統一されたインテリアに、差し色として木製の小物が加えられている。ブラインドの窓からは程よい光が入り、床には薄いグレーのフロアタイルが敷かれていた。
お部屋に入ってすぐ、「上級者」だと分かるたたずまい。

それもそのはず、初音さんはInstagramで3.3万人のフォロワーを抱える「お部屋インフルエンサー」だ。趣味で毎日投稿しているという彼女のアカウントでは、台所の掃除をしている動画、友人とカードゲームで遊んでいる風景などの何気ない日常がアップされている。初音さんの生活は見ているだけで「チル」できそうだ。

「こんなにフォロワーが増えるとは思ってませんでした(笑)。ここに遊びに来てくれた友人が、『投稿したらきっと伸びるよ!』って言われてなんとなく始めただけで……。それまでは『お部屋インフルエンサー』の界隈があることも全然知らなかったですね」

初音さんのお部屋、じつは右奥に和室がある。物件の決め手も、まさにここにあったと言う。シルバーでクールなリビングと、畳であたたかい寝室。敷居を隔てて広がる2つの空間に、取材班もじっくりと見回してしまう。

初音さんは2年前、就職を機に福岡から上京。1軒目は憧れだったコンクリートのお部屋に住んでいたものの、慣れない都会の生活で少しずつストレスが溜まっていった。

「前の部屋も可愛くてよかったんですけど、コンクリートはやっぱり寒くて。それに私は東京に来たばかりで、人は冷たいし部屋も寒いし、家に帰ってもなんだか落ち着かなかったんです。引っ越しを考え出したタイミングで実家に和室があるのを思い出して、次は畳のある物件にしようと思ったんですよね」

そんな初音さんのチルタイムは、イスに座って日記手帳を開くこと。なんと小学生の頃から書き続けているらしい。幼少期から日記を書き続けているとは、脅威の継続力だ。

「いや、もちろん書けない日もありますよ(笑)。その日の天気だけメモして、「今日は書けない」って堂々と書きます。たくさん書こうとすると続けられないので」

意外にも、日記を書くことより「日記を読んでいる時」のほうがリラックスするらしい。特に印象に残っている1日を聞いてみた。

「いつだろう……」と言いながらページをめくっていた指が、あるところでピタっと止まる。

「この日だ、久しぶりに実家に帰った時。母が寝室で先に寝ていた日があったんです。何気なくふすまを開けてみたら、母がものすごくちっちゃな背中で丸まって寝ていて……。その瞬間、『あぁ、私も大人になったんだ』と思ったんです。日記には『このちっちゃい背中を私は守りたい』と書きました。上京して忙しい日々を過ごしていると、こういう気持ちもついつい忘れてしまうんですよね。でも日記を読み返せば、また思い出せる。日記が自分を鼓舞してくれるような気持ちになるんです」

そんな初音さんの上京物語はまだまだ始まったばかり。最後に、今後の目標を聞いてみた。

「家のリノベをしてみたいですね。アパートの一室を購入して、全部自分でDIYをしてみるとか……。この部屋も、将来的には民泊ができるようにしたいんですよ。これから大家さんに交渉してみるつもりです」

この部屋の民泊ができるようになった日、初音さんはどんなことを日記に綴るだろう。初音さんにとって、日記というチルは過去と未来をつなげる行為なのかもしれない。

窓の見える部屋で、世界旅行を擬似体験。スタイリスト・細沼ちえの3畳チル

最後に向かったのは、スタイリスト・細沼ちえさんのお宅。

お部屋に入ってまず目を引くのは、正面にある大きな窓。この景観をさえぎらないように、背丈の低いインテリアで統一したという。本棚はワインの木箱、机は土台に薄い木の板を乗せただけのシンプルなもの。床には、旅先で買ってきたというラグが敷かれている。

「このラグはチュニジアで買った物です」

そう話す細沼さんは根っからの旅行好き。これまでに訪れた国の数は「もう覚えてない」というほどだ。この床に座るスタイルも、旅先で出会った文化の影響を強く受けている。

「モロッコとかチュニジアに行った時、じゅうたんの上に座ってお茶を飲む文化があってこれはリラックスできると思っていたので。うちのリビングはその影響を受けていると思います。友達が遊びに来ると大人も子供もみんなそこら辺でゴロゴロしてます」

海外でたくさんの雑貨を見てきた細沼さんの「めずらしいもの好き」の一面は、リビングのあちこちからうかがえる。

ものを「連れて帰るかどうか」は、フィーリングで決めるという細沼さん。彼女の直感にピンとくるものは、どれも違う国からやってきているのにもかかわらず、不思議と全体が調和している。

「仕事で疲れた時に、ホッとする家じゃないと帰りたくないじゃないですか……?」 そんな細沼さんの仕事はフリーのスタイリスト。日中はだいたい出かけているという。

「東京って、物事が進んでいくスピードが早いですよね?」
都会に住みながら、スタイリストとしてせわしない生活を送る細沼さん。そんな彼女が旅先でホッとするのは、自然豊かな田舎だと言う。

「都会はどこへ行っても都会なんですよね。それはどこの国へ行っても変わらないんだなと、色々な国を見て来て感じました。でも田舎は国ごとにそれぞれの文化や生活が色濃く残っているので日本にはない感覚もインプットできます」

コロナ禍は国内を旅していました。写真集は仕事で提案する撮影の雰囲気を考えたりする時に見たりしています。旅に出れない時でも、自分のスパイスになる存在です」

今年からは海外旅行を再開していきたいと話す細沼さん。最後に、今後行ってみたい国について聞いてみた。

「いっぱいありますけど、スリランカやエストニアが気になってます。いつも一緒に海外を回っている友達と行って、またいろいろな事をインプットして来たいですね」

細沼さんの旅が、再び始まろうとしている。

イラストレーター、ライター、スタイリストたちの3畳チル。
取材を通して見えてきたのは、「帰ってきたくなる部屋」というテーマこそが、クリエイターたちのおしゃれな部屋づくりを支えるひとつの思想となっているということだった。当たり前だが、リラックスの形は人それぞれに違う。まずは、自分が落ち着ける空間の特徴を探してみることが必要なのかもしれない。

春から新生活をはじめる人はぜひ、自分がリラックスできる空間づくりにこだわってみてほしい。

取材・執筆:三浦玲央奈(ツドイ)
撮影:澤田詩園
編集:今井雄紀(ツドイ)

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