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2022.10.24

桂二葉が常連の店で語る、落語の“心地いい”魅力

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落語家 桂二葉のチルタイムは京都・かもがわカフェで過ごすひと時。お気に入りの場所で落語を語る。

屈託のないキャラクターと語り口で古典落語に新たな魅力を吹き込んでいる落語家・桂二葉さん。昨年には若手の登竜門的コンテストであるNHK新人落語大賞を受賞。現在上方の落語家の中で最も勢いのある一人だ。そんな活躍目覚ましい二葉さんお気に入りのチルタイムが京阪電鉄 神宮丸太町駅近くに位置する〈かもがわカフェ〉でのひとときである。一つ通りを出れば鴨川が臨め、ゆったりとした時間が流れるこのスポット。ここでどんなひと時を楽しんでいるのか聞くのが本稿の目的だったが、話題はやはり心酔する落語の話へ……その一部始終をご覧ください。

桂二葉
2011年桂米二に入門。「女性が古典落語を演じることは難しい」と言われてきた定説を覆そうともがき、令和3年NHK新人落語大賞では女性初の大賞を受賞。約300年続く古典芸能である落語の世界に変革をもたらすべく奮闘を続ける。

落語が心地いいのは、演者の人柄

——:落語家として活動される中で、一番労力を使うのはどういう時ですか?

二葉:一日に3席やらないとあかん日はやっぱり疲れますね。でも長くても楽にできる噺(はなし)や、逆に短くても、しんどいやつはあります。難しい言葉とか、地名がいっぱい出てくるとめっちゃ頭使う。あと『近日息子』は怒り狂うところが多いのでパワーがいります。その分、腹立つことがあった時にやるとストレス発散でスッキリしますけど(笑)

——:落語を観ているとストレス発散になったり、心が休まる感覚があるのですが、お仕事にされている二葉さんも落語に心地よさを体感することは今でもありますか?

二葉:ありますね。まず、落語ってすごく平和なんですよ。聴くのが本当に好きです。でも、落語家は基本客席から観るのは禁止なので舞台袖から聴いています。それこそ、客席から見えるんちゃうかなってギリギリのところで。落語家と一緒の世界に入って、同じ空間にいるお客さんたちと時間を共有しながら、一緒に笑うのは何とも心地いいですね。

——:心地よさという視点でおすすめの演目はありますか?

二葉:うーん。演目よりも誰が演じるかの方が重要だと思いますね。自分が心地いいと感じる噺も、演っている人によってはすごく嫌な噺に聴こえてしまうこともあって。これも落語の面白いポイントです。それで言うと、桂雀太兄さんの落語は最高におもしろくて、音も気持ちいい。おすすめです。

——心地よさは演目よりも演者に依存するということですね。

二葉:落語ってその人が全部丸見えになるから、裸を見られることよりも恥ずかしいことやと思います。(桂)米朝師匠も言うてはりました。「どんな上手くなっても、どれだけ売れても、やっぱり最後は人間やで。人柄や」って。

——:なるほど。では二葉さんはそのためにどんな人間であろうとしていますか?

二葉:まずは私の性格が悪いということを受け入れるということ……。

——:いやいやいや(笑)

二葉:(笑)。でも弱い人の気持ちがわからんと、えらそうにしたらあかんとかは日ごろから思っています。

——ダメな振る舞いは回りまわって自分の落語に返ってくると。

二葉:そうやと思います。自分では気づきにくいんですが、端々に嫌な部分が出てしまう。その人からどんな「気」が出ているのか、わかる人には全部伝わりますもんねぇ。

——お仕事に取り組みながら、それ以外の時間でまた稽古して、また日ごろからも律しなければいけない。大変なお仕事ですね。

二葉:ほんまにですよ。四六時中落語のことと、ラジオでなに喋ろうかばっかり考えているので、頭おかしなる(笑)

1週間の中で唯一、ホッとする時間が過ごせる場所

——:そんな二葉さんがリラックスできる場所として、ここ〈かもがわカフェ〉を挙げていただきましたが、どういう時に訪れていますか?

二葉:毎週火曜日にそのラジオ(『ま~ぶる!桂二葉と梶原誠のご陽気に』(KBS京都))の4時間生放送があるんですけど、その後に来ることが多くてですね。ここでマスターと喋るのが、1週間の中でもホッとする時間なんです。その後に仕事がない限りは必ず寄る場所。

——:マスターとはどういう話をしているんですか?

二葉:悪口が多いですかねぇ(笑)。もちろん嬉しいことも。もう10年近い付き合いなので「ちょっと聴いてくれる!?」って、何でも喋れるお兄ちゃんに会いに行くような感覚です。

——:二葉さんが桂米二師匠に入門されたのが2011年ですので、通うようになったのは入門されてすぐだったんですか?

二葉:そうでしたね。修業中は落語のことだけに集中しないとあかん時期なので、カフェとか行っていることがバレたら破門なんですけど、もう時効やと思います(笑)

——:この場所のどういうところが気に入っているのでしょうか?

二葉:いつもカウンターに座っているんですけど、隣に座った全然知らん人と喋るのも、なんかいい時間ですよね。ここで出会う人とは気を使わなくていい。今そこに座っているあの子も、京大落研(京都大学落語研究会)なんですよ。最初は学園祭に出てほしいって熱い長文のメールくれて繋がったんですけど。よくこの店に来ているので、ここで落語の話をするのも楽しいです。なかなかマニアックで、落語の見る目あると思います(笑)。マスターも落語が好きで理解があるし、最近では自分でもやりだしたり。

落語の中にいる「アホな人」になりたいという欲求

——:二葉さんはここで、定期的に落語会も開催されているそうですね。

二葉:そうそう。いわゆる勉強会という、まだやり慣れていない演目をやる研鑽の場として使わせてもろてます。だから誰でも楽しめる初心者向けの会ではなく、私のことをわかってくれているお客さんが温かく見守ってくれる、落ち着いてチャレンジが出来る会です。

——勉強会と独演会ではやはり心構えは違うのですか?

二葉:向き合う気持ちは一緒やと思います。ただ、勉強会は失敗しても構わないくらいに挑戦する気持ちでいるし、逆に独演会やと絶対に失敗は出来ないという違いはありますけど。

——:落語をする時に、お客さんをこういう気持ちにしたいと考えることはあるのでしょうか?

二葉:まず、自分が楽しむ気持ちの方が大事やと思てます。その結果、お客さんが私の落語の世界に入ってきてもらって、一緒に笑ってくれたらとてもうれしいなぁという感覚です。

——:お客さんに楽しんでもらうのは目的ではなく、あくまで結果だと。ご自身の欲求とはどんなものですか?

二葉:私、落語に出てくるアホな人に憧れていて、あんな人になりたいんですよ。落語家になる前は、人前でアホになることが出来なくて、ずっとお利口さんを装って生きてきた。保育園で「将来の夢は?」って聞かれたら「ケーキ屋さん」って答えていたけど、そんなこと1ミリも思ったことない。気ぃ使ってたんです。でも落語にはアホの登場人物が出てくるし、生意気で憎たらしい子どもも出てくる。それを堂々とやれるでしょ。あの頃に出来なかった自分を今取り返している感覚です。

——落語の登場人物の中でどの人が好きですか?

二葉:上方落語によく出てくる喜六が好きですね。特に『天狗刺し』はアホな人の中でも特にぶっ飛んでいるのでおもろいです。

——『天狗刺し』は昨年二葉さんが大賞をとられたNHK新人落語大賞でも披露されていましたね。

二葉:そうですね。金儲けのためにすき焼き屋をやろうとするんですけど、牛肉はよくあるから、天狗のお肉ですき焼きをしたら流行るんじゃないかって、鞍馬山にいる天狗を捕まえてこようとする話。周りは冗談みたいに聞いているんですけど、喜六は「ええことに気が付いたで!」って本当に思っていて、山に行くんです。すごくアホやけど、楽しく生きているなと思います。

90歳の自分が演る落語が楽しみ

——:今年は事務所も移籍されるなど、さらに活動の範囲を広げておられますが、目標にしていることはありますか?

二葉:NHKの賞は昨年いただいたので、次は大きい演目にチャレンジすることですかね。『真田小僧』とか子どもが出てくる話はこれまで得意としていたんですけど、女性役が初めのころは苦手で、色気のかけらもないって師匠によく言われてた。「女性らしい」という言葉は好きではないんですけど、だんだんと女性もやれるようになってきたら、出来る噺が一気に広がったんです。だから自分が難しいと思っている演目こそやってみたい。名人がやるような大ネタの『らくだ』を今覚えようとしていて。本当は50歳くらいでやれたらいいと思っていたくらいの大きな噺ですけど、「こいつ『らくだ』やりよるで」と面白がってもらいたいです。

——:まだ若手とされる二葉さんが取り組む『らくだ』、気になります。

二葉:年をとることも楽しみです。90歳のババアが全力で落語やってたら、おもしろそうとちゃいます?点滴ゴロゴロ転がしながらでも高座に出て、笑ってもらえたらうれしいです。

取材協力:かもがわカフェ

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取材・執筆:峯大貴
撮影:岡安いつ美
編集:安岡倫子(ツドイ)

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