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2022.10.11

キャッチボールの慣性に身を任せて。

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リラクゼーションドリンク、CHILLOUTが提唱するキャッチコピーは「ストレス社会にチルでクリエイティブなライフスタイルを」。けれども、肝心の「チル」文化はまだまだ形成の途中。熟成中の文化を新しい角度から見つめ直すべく、ひとりのアーティストの元へと向かった。

バンド・MONO NO AWAREのギター・ボーカル、玉置周啓さんだ。バンド内では全ての作詞を担当しているほか、Webメディア・EYESCREAMで読書感想文の連載を執筆中。最近はDos Monosのラッパー・TaiTanさんと趣味ではじめたPodcast番組で地上波にデビュー、TBSラジオで『脳盗』としてレギュラー化が決定するなど、音楽にとどまらず言葉を軸に活躍の幅を広げている要注目アーティストのひとりと言える。そんな彼に聞けば、「チル」で「クリエイティブ」なライフスタイルのヒントが見えてくるのではないか、と考えたわけだ。

取材前にあらかじめチルタイムの過ごしかたを聞いたところ、「公園でキャッチボール」という意外な回答が返ってきた。今回は玉置さんに、「チル」について聞くことにした。

■プロフィール

玉置周啓

1993年生まれ。バンド「MONO NO AWARE」のヴォーカル&ギター。東京都八丈島出身の玉置と加藤成順(Gt)が、大学で竹田綾子(Ba)、柳澤豊(Dr)に出会う。2021年6月、4thアルバム 『行列のできる方舟』をリリース。2020年からは、ヒップホップユニット「Dos Monos」のラッパーTaiTan氏とともにPodcast番組『奇奇怪怪明解事典』を配信している。

MONO NO AWARE ボーカル・ギター 玉置周啓さん

“常時出勤状態”のアーティストの頭を休ませる、慣性のキャッチボール

——そもそも玉置さんはいつ疲れを感じますか? 

玉置:いきなりこんなことを言うと人聞きが悪いんですけど、基本的にずっと疲れてますね(笑)。多忙で疲労しているか、楽曲制作の不安で焦燥しているか——そのふたつの状態しか生活にない気さえします。

——それはなぜか、聞いてもいいですか?

音楽をふくめ、何かをつくったり企画したりする仕事は全部そうだと思うんですけど、時間制じゃない仕事って休日と平日の境目がかなり曖昧で。僕も基本的には仕事のことがずっと頭から離れないから、常に出勤状態のような感覚に陥ってしまうんです。

——とすると、チルタイムにキャッチボールをすることで、さらに疲弊してしまうような気もしますが……。

玉置:もちろん疲れますけど、それは常日頃感じている精神的な疲れとはまた別の肉体的な疲れですね。身体を動かしたあとの適度な疲労は気持ちがいいんです。ライブをした日と同じで、キャッチボールをした日はよく眠れますもん。


でも僕、ライブ中もひとりでいる時も、常に頭の中で何かしら考えてしまう癖があって。特にひとりでいる時が1番つらい。自分とおしゃべりしているような感覚になるんですよ。

「微炭酸、好きなんですよね」とひとこと。

——つまり、誰かとキャッチボールをしている時間だけが唯一、頭を空っぽにできる時間だと

そうなんです。なぜならば、野球であれば考えずとも「型」に沿って身体を勝手に動かすことができるから。球をキャッチして、相手に投げる。その慣性の行為の繰り返しによって、ようやく思考がストップできるんです。そこではじめて、「ここの公園の空、自分ちの天井より高いな」とか「自分、空回りしてたな」ということを客観視できる。

——身体に染み付いた「型」というのは、小中高と続けられていた12年間の野球で身につけられたものでしょうか?

玉置:そうですね。12年もやっていると、ある程度の重さを持った球を手から放るという行為自体がもはや快感になるんですよね。野球にまつわる行為をすること自体、実家の匂いを久々に嗅いで落ち着く気持ちと似ているというか……。キャッチボールをすると、里帰りした気分になります。

——普段のキャッチボールの相手も同郷のご友人ですか?

玉置:いや、上京して知り合ったドミコというバンドのひかるくんとやってます。彼はたしかハンドボール畑なので野球の経験はないんですけど、3年前くらいに「野球をはじめたい」って急に連絡が来て。それこそ小学生が野球をはじめるような感じで、僕がキャッチャー、ひかるくんがピッチャーをやることに。たまにこの公園に集まっては、ひかるくんのフォームが良くなるようにちょっとずつ改良を重ねています。

「静」のチル、「動」のチル

——玉置さんのお話を聞いていると、チルに対する解釈の幅を広げられるような気がしてきました。

僕もいま話しながらまとまってきたんですけど……チルには「静」のチルと「動」のチルがあって、個人の適性によって、何をチルと感じるのかはかなり変わるのかもしれないですね。

——なるほど。チルには2種類あるということですか?

一般的なチルタイムのイメージはおそらく「静」のほうだと思うんです。サウナだったり読書だったり、身体を休めて、ひとりの世界でゆっくりと静かに過ごす王道のリラックス法。その一方で、身体を動かすこと自体がチルにつながる人もいるんじゃないかなと思っていて。人によってはそれがジョギングだったり、散歩だったりする。

僕は基本の作業スタイルがギターを持って椅子に座っている状態なので、日常がすでに「静」なんですよね。リラックスするには逆に、身体を動かす必要がある。だから幼少期からやっていた野球のキャッチボールという行為にたどり着いたんだと思います。「動」のチルによってはじめて無心になれるし、思考からやっと解放されたという「自在感」を得られる。

——「型に沿って動くことで自在感を得る」。一見矛盾しているようにも見えますが、おもしろい発想ですね。 ちなみに同じ野球でも、バッティングセンターに行くことは「動」のチルにはならないんですか?

たまに行きますけど、「自在感」は感じられないですね。バッティングセンターで球を打つのは投げることよりも断然難しいので、個人的にはチルにならないです(笑)。球速にあわせてバットの振り方を微妙に変えないといけないし、打てなかったらその日の功績がゼロになる。

その分、キャッチボールは打率という評価軸もないので、投げ方を調節する必要がないんです。グローブに球をおさめるだけでその場は許されます。

スコアボードにこそ点が入りませんが、僕の中のチルタイムの過ごし方としてのキャッチボールはもう満点。「今から身体を動かすぞ」と気負わずに、公園でふらっとはじめられる気軽さもいいなと思います。

——どうやら玉置さんのチルには「功績」の有無も関わっているようですね。

そうかもしれない。やっぱり、自分が曲を完成させない限りはその日の「功績」が生まれないというのがつらくて……。「今日も自分は1日何も生み出せなかった」と落ち込む気持ちを、チルタイムで適度に筋肉を動かしたという功績でごまかすというか、そこでの達成感に救ってもらう感覚です。

公園でキャッチボールをすると「自分ちの天井、めっちゃ低いな」って毎回思います。いや、家にこもって作業していると気づかないんですよ。マンション暮らしで、気をつかって自分が声を落としていたことを。でも身体がほぐれると、気持ち的にも声を張れるような気がします。

自宅でレコーディングするときも、キャッチボールをしてからやる方がいいかもしれないですね。

取材・執筆:三浦玲央奈(ツドイ)
撮影:小池大介
編集:安岡倫子(ツドイ)・今井雄紀(ツドイ)

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